日本移植者協議会 活動報告
最近の腎移植について  NPO日本移植者協議会理事長 大久保通方

先日、徳州会宇和島病院において、非血縁者移植が行われ、その際ドナーとレシピエントの間で金品の授与があり、レシピエントとその妻が起訴され、ドナーは略式起訴されました。
我が国の移植医療においては、死後であれ生体であれ全ての臓器提供は、誰からも強請されることなく任意の意思にもとづき無償で提供されることが絶対条件です。この条件が崩れたことに大きな憤りを感じるとともに、誠に残念で仕方がありません。
実は、我が国おいては現在の臓器移植を作る際も、それ以前の脳死臨調においても、生体移植については、ほとんど議論をしてきませんでした。移植医療は、人間の善意により成り立っており、まずは性善説がベースとなっています。最近では、多くの病院において、移植医だけでなくレシピエントコーディネーターがレシピエントとドナーに何回か面談し、その意思の任意性について調べる様になってきましたが、以前は、レシピエントコーディネーター自体いませんでしたので、ごく僅かな病院において精神科の医師などが面談を行い、ドナーの意思確認や心理的負担の有無などを調べているだけでした。殆どの病院においては、移植医のみが面談し、移植を行っていましたし、現在もあまり変わってはいないでしょう。本人確認も保険証による確認だけで、戸籍謄本や運転免許証などの提示による確認は殆ど行われていないのが現状です。ですから最初から医師を騙すつもりであれば、見抜くのはかなり難しいでしょう。
しかし、この様なことが二度と我が国で起こらないために、今後は、早急に厚労省の臓器移植委員会で緊急に防止策をまとめることになっています。しかしそれで問題が解決する訳ではありません。
今回の事件の報道においては、マスコミ各社がかなり冷静に対処したように思います。臓器売買という言い方でひとくくりにしたことには、違和感はありますが、今回の事件の底流にある状況についてかなりしっかり報道していました。確かに起こってはいけないことですが、その結果、一般の方々には、ある程度我が国の移植医療の現状が伝わったと思います。
今回のレシピエントは、糖尿性腎症から血液透析を導入した患者です。糖尿性腎症からの腎不全患者の予後は、一般の糸球体腎炎からの腎不全患者に比べ非常に悪く、本人や家族は、命の危険を感じていたと推測されます。我が国おいて腎移植を必要とした患者の選択肢は、親族からの生体移植か献腎移植ですが、献腎移植は待機登録者の約80分の1に過ぎません。早期の移植を必要とする患者にとって、これは期待して待てる数字ではありません。
そうなると生体移植ですが、誰にでもドナーとなりえる親族がいるわけではありません。次の選択肢として渡航移植です。以前は腎移植でも米国への渡航移植がありましたが、現在では待機期間が5年以上となり、費用も高くごく僅かになっていると思われます。そして始まったのがアジア諸国への渡航移植です。最近では、殆どが中国への渡航移植です。しかし中国への渡航移植は、米国に比べ費用は格段に安いですが、ドナーの殆どが死刑囚であること、施設による格差が大きく、また感染症に対する不安などあります。また術後の治療にも問題が多く、日本移植学会の発表でもその危険性が指摘されています。
今回の事件も中国への渡航移植の問題も突き詰めるとその原因は、あまりにも少ない我が国の献腎移植にあります。欧米では、スペインが一番提供が多く100万人あたり30腎を超えています。米国でも20腎以上あります。我が国は、約1.4腎です。すなわちスペインの20分の1に過ぎません。もし欧米諸国と同等の年間15腎になれば、年間2千近い献腎移植が行われることになり、待機年数は、一挙に5〜6年に短縮されます。腎移植におけるこれらの問題解決には、様々なことが考えられますが、最も大事なことは、国民の理解を得て、提供者を増やすことです。
私たち移植者や移植に関係する患者団体は、まず現在最重要課題として臓器移植法の改正に取り組んでいます。これを来年の通常国会では必ず成立さすよう精一杯努力しています。しかしやはり国を挙げて国民の理解を得る啓発活動の強化に尽きると思います。欧米諸国も国を挙げて努力した結果、いまのような臓器提供数に至っているのです。是非国は、移植医療の普及啓発にもっと予算をかけるべきです。それが結果として1兆3千億円に達する透析医療費の抑制になります。厚労省および各自治体の施策転換を切に望むものです。


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