臓器移植患者団体連絡会の病腎移植に関する声明

私たちは、臓器移植にかかわる患者および家族の5団体12万人で構成する会で、1995年より共に力を合わせ臓器移植の普及啓発を目的として活動しております。
この度、市立宇和島病院や宇和島徳州会病院などにおいて病人から摘出した腎臓を移植したことに関して、調査報告が行なわれたことを受け、臓器移植に関わる患者団体として、声明を発表します。
今回の万波医師らによる病腎移植について厚生労働省の調査班及び各施設での調査委員会から報告が出されました。それによりますと、ほとんどの事例において腎臓摘出が不適切であったり、手術の方法が提供者に不利益をもたらす可能性があったと報告されています。またほとんどの事例において、インフォームドコンセントの書類が存在しておりません。
医師は、目の前の患者に対し、できうるかぎり最高、最善の治療を行なうのが努めであり義務です。今回の万波医師らによる病腎移植においては、ほとんどの事例において提供者は、腎臓を提供するために不利益を被っています。なお且つそのことについて一切のインフォームドコンセントを受けていません。
移植医療においては、どの様な場合であっても提供者の権利が最も尊重されなければなりません。まして今回は、近親者でない第三者です。その提供者が不利益を被ることがあってなりません。
またその病腎移植を受けた患者の予後については、生着率、生存率が一般の生体及び献腎移植を大きく下回っているだけでなく、血液透析における生存率をも下回っていることは、大きな問題です。
私たちが昨年の11月8日の声明で指摘した「ドナー側の問題として移植に使用した腎臓は、摘出する必要があったのか」「提供にあたりこの経緯を説明し、提供の同意を得たのか」「腎移植を行なう際にその腎臓の摘出の経緯とその状態及び術後のリスクについて説明した上で同意を得たのか」「そしてそのレシピエントは、公正に選ばれたか」この4点について、レシピエント側のインフォームドコンセントについては未だ不明ですが、その他については、全て不備であったことが判明しました。以上のことから私たち臓器移植患者団体連絡会では、今回行われた万波医師らによる病腎移植は、やってはいけない移植だったと考えます。

今後については、臓器移植患者団体連絡会として以下の提言をします。
1)今回の厚生労働省調査班の報告では、稀であるが病腎移植の可能性もあると言及しています。腎臓摘出が最善の治療である場合において、患者が全く不利益を被ることなく、強制されることもなく腎臓の提供を申し出た時は、病腎移植が行われる可能性があり今後は、関係学会が中心となり、過去の症例を十分検討し、指針を作るべきである。
厚生労働省臓器移植委員会は、その指針に基づき検討し、その他の事例も含め生体移植に関するルールを作り、そのルールに則り慎重に進めて行くことが望ましい。
但し悪性腫瘍を発症しているケースは、今回の病腎移植においても生存率が著しく低いことが判明し、また世界的にも生体、死体であれ禁忌とされており、これらのルールが変らないかぎり、除外すべきと考える。

2)臓器移植医療は、本来亡くなった方からの提供による移植が主でなければならない。しかしながら我が国は、諸外国に比べあまりにも少ない状況が長年続いている。この状況が今回の事例や渡航移植を引き起こしている。
国及び自治体は、法律にも明記してあるように、国民の移植医療への理解が進むよう努めなければならないが全く不十分である。今後国を挙げて臓器移植の普及啓発を行い、臓器提供者の増加に努めなければならない。

3)臓器移植法が施行されて今年で10年になる。この法律に不備があることは、当初から指摘されていたにも関わらず、この間放置し続けてきた国会の責任は重い。
一日も早く臓器移植法を改正し、提供者の意思を活かせるシステムを構築しなければならない。

国および自治体、移植医療に携わる医療者および関係者、私たち患者がなすべきことは、一致協力し国民に対し臓器移植の現状とそれがもたらす素晴らしさを伝え、臓器提供の協力を得ることです。
私たちは、誰もが必要な時に等しく移植医療を受けることができる社会の実現をめざしています。この機会に関係各位の御尽力を切に願うものです。

臓器移植患者団体連絡会 代表幹事 大久保 通方
(社)全国腎臓病協議会  会長 油井 清治
全国心臓病の子どもを守る会  会長 斉藤 幸枝
胆道閉鎖症の子どもを守る会  代表 杉本 紀子
NPO日本移植者協議会  会長 鈴木 正矩
ニューハートクラブ  代表  都倉 邦明


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