日本移植者協議会ニュース
新型インフルエンザ情報 号外2(2009/11/02)-1

新型インフルエンザの流行の現状
 10月30日国立感染症研究所は、10月25日までの1週間で新たにインフルエンザに感染し医療機関を受診した推定患者数は全国で114万人に上ると発表しました。これは前週の1.4倍で、初めて100万人を突破しました。7月以降の推定患者数は約431万人となりました。すでに注意レベルを超えたのは42都道府県となり全国規模で本格的流行となってきました。
医療者に続き妊婦や基礎疾患のある人への新型インフルエンザ・ワクチン接種が一部の地域で始まりましたが、大半の都道府県では、11月9日以降になるようです。
ワクチン接種において優先順位1位の基礎疾患を有するものとして、?慢性呼吸器疾患 ?慢性心疾患 ?慢性腎疾患 ?慢性肝疾患 ?神経疾患・神経筋疾患 ?血液疾患 ?糖尿病 ?疾患や治療に伴う免疫抑制状態 ?小児科領域の慢性疾患 と決められています。
その中で「8ー5免疫抑制状態」として以下の様に規定されています。
・原発性・後天性の免疫不全疾患(HIV感染症を含む。)
・免疫抑制薬又は副腎皮質ステロイドホルモンを継続して使用している方
・その他、免疫抑制状態と医師に判断される方(臓器移植後など)
すなわち臓器移植者は、優先順位1位になっています。接種は、ケアーを受けている医療機関で受けることになります。他の医療機関で受ける場合は、主治医等の交付する優先接種対象者証明書が必要になります。

新型インフルエンザ・ワクチン接種と対策について
ここでは、新型インフルエンザのワクチン接種について述べますが、合せてこれから流行期には入ります季節性インフルエンザについても記します。新型インフルエンザの危険性が叫ばれていますが、季節性インフルエンザでは、毎年数千人が亡くなっており、とても怖い感染症です。
日本移植学会のガイドライン(1)
既知インフルエンザ・ワクチン接種の有効性と安全性を考慮し、以下のような一般的な接種見合わせ環境が無い限り、ワクチン接種を推奨する。
・ワクチンアレルギー反応の既往
・活動性感染症の合併
・移植後6ヶ月以内、免疫抑制療法が不安定、拒絶反応の治療中、またはその治療後間がない。
・その他、主治医の「非接種が妥当」との判断

日本移植学会ガイドライン(2)
重篤化の要素をもつ患者の近接者は、政府案ではワクチン接種優先者には入っていないが、積極的な接種を、患者を通じて推奨する。
なお、新型インフルエンザのワクチンについては、まだ効果(製造法による差など)、安全性(副作用)が確立されていない点に注意し、最新情報に注目することが必要。

日本移植学会ガイドライン(3)
近接者罹患時の対応
近接者の定義:同居、または施設の共同生活者、その他、食器の共有や飛沫感染に曝露されうる距離、空間で接触する対象。「すれ違った」、「同じ待合室にいた」などは、この対象からは外れる。また、インフルエンザの伝搬可能性は、発症1日前から、解熱後24時間までとされる。
(1) できるだけ罹患者との接触(直接の接触、タオルなどを介しての接触)を避ける。
(2) 罹患者のマスク着用、咳エチケットを守る
(3)手洗い、うがいの励行
(4) 発熱、咳、喉の痛み、下痢、などの症状がでないか注意する。
(5) 栄養、睡眠などでの体調維持
(6) 抗ウイルス薬の予防投与
主治医の要否の判断により抗ウイルス薬の予防投与を行う。
現在抗ウイルス薬として、タミフル(一般名:オセルタミビル。カプセル、ドライシロップ)、リレンザ(一般名:ザナミビル。吸入)の2種類が利用可能。どちらを利用するかは主治医の判断による。
予防使用の場合、タミフルはインフルエンザ患者と接触後、できるだけ早く、遅くとも48時間以内、リレンザは36時間以内に投与開始する。なお、予防投与の場合、いかなる場合でも健康保険給付はなく、自費診療となるため、あらかじめ患者の了解をとるなどの注意が必要。
予防投与についての注意のまとめ
・予防投与はすべて自費診療
・しかも、「抗ウイルス薬の適正使用の観点」から、予防投与はすべての「濃厚接触者」に認められるわけではない。原則として、以下の条件に合致する「濃厚接触者」に認められる。すなわち、「重症化の可能性の少ない健康人では予防投与は行わない」。
移植後患者は厳密にはこの範疇から外れる場合があるが、免疫抑制状態である、という危険因子を有するものとして、主治医の判断でこれに含めるものとする。
65 歳以上の高齢者
慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
代謝性疾患患者(糖尿病等)
腎機能障害患者
ただし、タミフルは13歳以上、リレンザは5歳以上に限る。
また、タミフルカプセル製剤のみ予防投与可能で、ドライシロップは不可。
†(7) 就学・就園児に関する注意
移植患児の親は、他の感染症の場合と同様、学校の担任又は養護教員と綿密に連絡を取り、インフルエンザの校内発生状況を把握する。
原則的に同じクラス又は行動をともにすることの多いクラスでインフルエンザが発生した際には、休学する。保健室や養護教室に退避できる場合は、養護教員と相談しながら、登校するかどうかを決定する。
同じクラスなどで発生があり、近接の接触が考えられた場合には、上記近接者罹患時の対応に準じる。 

寺岡慧教授は、より詳しく以下の様に助言されています。
*インフルエンザ・ワクチンは新型インフルエンザに対するワクチンと、季節性インフルエンザに対するワクチンとがあります。ワクチン接種を受けるか否かは、その効果と危険性(副作用)との兼ね合いで決められます。
 季節性インフルエンザ・ワクチンの場合は、効果については2回接種の場合は、2回目の接種1〜2週後に抗体が上昇し始め、1ヵ月後にピークに達し、3〜4ヵ月後には徐々に低下しますので、予防効果は接種後2週から5ヵ月程度と考えられます。ワクチンを接種しても抗体が出来なければ効果はありません。
 その有効性は、65歳以上の健常者では30〜70%、65歳未満の健常者では70〜90%、1〜6歳の小児では20〜30%とされています。移植患者では、データがありませんが30〜60%前後と推定されます。しかし免疫抑制薬の投与量、年齢によっても異なります。
 新型インフルエンザ・ワクチンの場合は、全くデータがないため有効性については不明ですが、季節性インフルエンザ・ワクチンに準じるものと考えられます。
*インフルエンザ・ワクチンは不活化ワクチンであるため、接種後インフルエンザが発症することはないとされていますが、移植後早期で免疫抑制剤を大量に等されている場合は控えた方が良いと考えられます。
*インフルエンザ・ワクチンによる副作用(副反応)は下記のとおりです。
(1)局所反応?接種した部位の発赤、腫張、疼痛
(2)全身反応?発熱、頭痛、悪寒、倦怠感
(3)アレルギー症状?発疹、じんましん、発赤、かゆみ
 その他に、ギランバレー症候群、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎、けいれん、肝機能障害、ぜんそく発作、紫斑などがあげられます。
 季節性インフルエンザ・ワクチン接種後の副作用の発現率は0.0003%とされています。
 新型インフルエンザ・ワクチンでは本年10月28日までに85万人が接種を受けたと推定されており、重い副作用(ショック、アナフィラキシー、肝機能障害など)は6件(0.0007%)に発生し、別に報告された4件を含め10件となっていますが、いずれも回復しています。海外ではギランバレー症候群による死亡例も報告されていますが、わが国では現時点では死亡例はありません。
*下記の場合はワクチン接種対象者から除外されることがあります。
(1)過去にインフルエンザ・ワクチン接種後2日以内に発熱が見られた者
(2) 過去にインフルエンザ・ワクチン接種後、全身性発疹などアレルギーを疑う症状が見られた者
(3)接種当日37・5℃以上の発熱がある場合
(4)重篤な急性疾患にかかっている場合
(5)予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明かな場合
 ワクチン製造に使用するウイルスは卵を用いて培養し、可能な限り精製してありますが、微量の卵由来成分が混入している可能性は否定できないため、卵アレルギーの人はアレルギーを起こす可能性があります。また新型インフルエンザ・ワクチンのバイアル製剤には保存剤としてチメロサール(エチル水銀に由来する防腐剤)が使用されていますが、プレフィルド・シリンジ製剤には添加されていません。海外で製造されたワクチンには抗体産生を高めるため、アジュバント(免疫補助剤)が使用されていますが、国内では使用経験はありません。
日移協注:海外で製造されたワクチンは、まだ未知なことが多いので、ワクチンの接種は国産に限った方が良いと思います。


お問い合せ先:NPO日本移植者協議会
〒530-0054 大阪市北区南森町2-3-20 プロフォートビル507号
TEL:06-6360-1180・FAX:06-6360-1126
E-mail:nichii@guitar.ocn.ne.jp

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